「築地:世界を動かす日本の魚市場」
原題 "Tsukiji: The Fish Market at
the Center of the World"
テオドル・ベスタ-著
カリフォルニア大学出版 2004年7月刊行
世界最大の魚市場、築地。夜明け前から、極上の魚を求めて集まる魚業者や寿司職人でにぎわい、その独特の風景に魅せられて外国人観光客が集う東京のランドマークである。目抜き通りの銀座と隣あわせ、その名はよく知られているものの、実態はほとんど理解されていない。ここには毎日、世界各地から何十万トンもの水産物が集まり、競り落とされ、市場内にひしめく何百件もの専門店を通って、日本各地に流通する。
ハーバード大学の人類学者、テオドア・ベスタ-氏は、12年の月日をかけて日本、北アメリカ、韓国、ヨーロッパの漁港や魚市場でフィールドワークを行い、築地の競り市を構成する複雑な社会構造と、築地を中心として広がる世界的な流通のネットワークを説き明かす。停滞した日本経済、流通や消費の変化、水産物貿易のグローバル化を背景に、築地市場の日々のにぎわいは展開する。ベスタ-氏は築地という空間の光景、息づかい、ざわめき、リズムを生き生きと描き出すことによって、その内部に息づく豊かな文化、日本の食文化における築地の役割、そして、17世紀初頭より築地市場を形作ってきた商人の伝統をみごとにあぶり出す。
この本は、築地について書かれた世界初の民族誌であるだけでなく、日本の食文化を地球的規模で研究していることで画期的である。ベスタ-氏は、市場、商品、流通のシステムは、経済的な現象であると同時に文化的・社会的な現象であり、人類学的な現代社会の分析において、グローバリゼーションの趨勢とそれが実際にローカルな文脈でどのように実践されているかを理解するためには、市場と市場文化という二つの側面を検証することが必須であると主張する。写真、地図、歴史的印刷物などをふんだんに使い、魚商人の日常の人間ドラマと市場プロセスの的確な分析を巧みに織込みながら展開する本書は、人類学、食文化、日本史、経済組織論、都市研究、水産貿易、グローバリゼーション理論一般などについて関心のある人などに勧めたい本である。
テオドル・ベスタ-
(Theodore C.
Bestor): ハーバード大学教授(文化人類学・日本研究)。1983年、スタンフォード大学にてPh.D.取得。コロンビア大学、コーネル大学を経て、2001年より、現職。
1994-96年には、都市人類学会会長,
2001-03年にはアメリカ人類学会東アジア部門会長を務める。主な著書に、Neighborhood Tokyo 『東京の近隣社会』(Stanford University Press, 1989), Doing Fieldwork in Japan『フィールドワークの現場としての日本』 (共編,University of Hawai’i
Press, 2003),"How Sushi Went Global"「いかに寿司がグローバル化したか」(Foreign Policy, 2000)などがある。